【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
当時俺は8歳、沙夜は4歳。
何も知らない俺と沙夜は、一緒に家に帰ってきた。
『ただいまぁー!!』
『沙夜、手を洗ってから』
俺の注意を聞かず、沙夜は走ってリビングへと向かった。
その時俺は気が付かなかった。
両親が、なぜいつものように『おかえり』と言って出迎えてくれないのか。
『…ねぇ、おにぃちゃん。』
『なんだよ』
『パパとママ、ねてるよ。パパ、ママぁ、ゆかでねたらおかぜひいちゃうよ?』
その時の光景は、未だに俺の目に焼き付いている。
『沙夜!見るなっ』
沙夜は、もう覚えてないというのがせめてもの救いだった。
両親が死に、日本に親戚のいなかった俺たち二人はオルドリッジに引き取られた。
一族の反対を押し切り、俺を含めて引き取ってくれたのは当主であり俺の祖父。
それでも、一族からの風当たりは当初からひどいものだった。
けれど、祖父だけは優しかった。
祖父は、俺にたくさんの教養を授けてくれた。
そのお陰もあり一族からのひどい風当たりも、いつの間にか無くなっていた。
けれど叔父だけは、俺を憎んでいる。
アイリスが死んだのは、俺のせい。
俺の“あれ”のせいだ、と。
そして叔父の実の息子たちで、俺の従兄弟にあたるキースとエドガーも同様だった。
やがて今から二年前、祖父が亡くなった。
その途端、再び一族から嫌悪の眼差しを向けられるようになり、俺に婚約者が出来た。
早く厄介払いしたいようだった。