【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
暁くんは俯いて、左右の目に手を当てた。
そして…。
「これだよ」
ゆっくりと顔をあげて、目を開けた暁くんの瞳は、茶色でも黒でもなく……
ヴァイオレットだった…。
「―――!」
「この色はすごく珍しいらしくてね。オルドリッジではよくない色とされているんだ。」
あの日見た黒い瞳は、紫が黒に見えただけだったんだ…。
「“紫の瞳の男児は血を絶やす”。馬鹿げているだろう?こんな迷信に、ここまで振り回されたなんて」
紫色の瞳を伏せて、哀しげな笑みを浮かべた。
「ごめんね、こんなものまで見せてしまって。気味悪かったよね」
あたしが何も言わないのを困っていると取ったのか、ニコッと笑って目を隠そうとする暁くん。
けれどあたしは、慌ててその手を掴んで止めた。
「柚?」
あたしの突然の行動に、暁くんは虚を衝かれたらしく固まっていた。
それよりも、あたしは。
「…き、れい。」
「え…―――」
暁くんのその綺麗な瞳から、目が離せなかった。
真っ直ぐにあたしを見つめ返す紫の瞳には、大きな茜色の空が映っていて、まるで宝石のようだった。
不思議なその瞳に、まるで吸い込まれていくよう。
「こんなに、キレーなもの…見たことない……」
「ゆ…―――」
表情は動かないまま、けれど紫の瞳が揺れた。
そして、ツーと静かに涙が、頬を伝った…。
苦しそうに顔を歪めた暁くんは、顔を隠すかのようにあたしを強く抱きしめて、小さく呟いた。
「……ありがとう…」
と、微かに滲ませた涙の雰囲気を必死に隠しながら。