【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
♪ 過去との決別
それから数日後、暁くんはイギリスへ発った。
オルドリッジと話をつけてくるから、と言って。
過去を捨て、前を見ようとしてくれた暁くん。
そしてあたしも、ある決意をした。
というのも、暁くんが過去と決別すると言うのなら、あたしも過去ともう一度向き合わなければ、と思ったからだった。
それともうひとつ、暁くんの言葉もあたしの背中を押した。
『彼女が君の何を守って亡くなってしまったのか、もう一度考えてみてくれないか』
アキちゃんが、あの事故で守ってくれたもの…。
そんなことを、考えたことは無かった。
ただ、あたしのせいで…というネガティブなことしか考えられていない。
守ってくれたもの、アキちゃんがあたしを庇った理由。
それは、命?
あたしの命を守ってくれたんだよね…?
それ以外に、何があるの…?
暁くんが一体何を言いたかったのか、わからなかった。
だからあたしは今、数年ぶりにある家の前にいた。
あれからずっと来ていなかった。
だから三年ぶりだろうか。
身体が、どうしようもなく震えた。
指先が冷たくて、動機がやたら速い。
恐怖にも似た感覚は、何度も経験したことがあるけれど、ここまでのは初めてかもしれない。
けれど、暁くんもこうやって向かい合おうとしてるんだよね…?
門前払いされるかもしれない。
また、ひどく罵られるかもしれない。
けれど、もう逃げないよアキちゃん。
あたしは、宮寐とかかれた家のインターホンを、ゆっくりと押した。