【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
そんな時、いつの間にかまた奥に引っ込んでたらしい原田さんがティーポットを片手に出てきた。
「アキ、紅茶淹れたから今度こそ飲めよな。」
暁くんは普段と変わらない声音でありがとうございます、と言うとあたしに再び視線を向けた。
「柚姫ちゃん、俺もてつだ…」
暁くんの言葉を最後まで聞かずに、あたしは即座に首を左右にふった。
そのまま、暁くんが口を開く前に背中を押して、カウンターの前まで誘導する。
「えっ?ちょっ…柚姫ちゃん?」
暁くんは座っててっ!
椅子を指差し、そんな意味を伝える。
だってね、あんな美味しい紅茶冷めちゃったらもったいないでしょ。
さっきだって、飲まないで行っちゃったしね。
「もう、わかった。俺は大人しく紅茶飲んでます。」
暁くんは、困ったような、それでいて優しい笑みを浮かべた。