【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「今年の4月くらいからだったかしらね、貴方が変わったのは。」
俺が、変わった…?
「急に自分の意思を見せるようになった。それに、わたしや誰かにに対して軽薄な口をきかなくなった」
…自分では気付かなかった。
「その時は、結婚を前向きに考えているのかしらくらいにしか思わなかったわ。けど、違った」
そうか、柚の存在が…。
「婚約という鎖であなたを縛ってはみたけれど、ダメね。貴方は前の貴方に戻ってしまった」
「……。」
「悪いけど、見たことあるのよ。貴方と彼女が一緒にいる写真。こっそり部下に撮らせたわ」
「え…いつの間に…」
「貴方は、わたしが一度も見たことがないような顔で笑っていて、すごく幸せそうだった。けどわたしには、貴方にそんな顔をさせられなかった」
ふ、とジェシーが寂しげに笑った。
「わたしじゃ、貴方に幸せはあげられない。彼女には、敵わないのね…。」
「ジェシー…」
「戻ってきた理由も、それなんでしょ?」
「ああ」
「だったら、最後まで戦いなさい。彼女も貴方も、好きなように輝きなさい。…わたしみたいないい女と結婚しなかったこと、いつか後悔させてあげるわ」
ジェシー…。
「そうだね、後悔しないように気を付けるよ。どうか君も、幸せになって」
「なかなかいい方がいらっしゃらないのよ」
「いるじゃないか、すぐ近くに。君を想ういい男が」
「え?」
きょとんとするジェシーに背を向け、俺はオルドリッジの屋敷へと向かう。
「またね、ジェシー。彼を大切にね」
ジェシーは、わかっていないようだった。