【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐





「(金で解決か?感心しないな)」




「(俺には、こんなものしかありませんから。他に何を望みますか?なんだって差し出して見せます)」





「(ふん。いい度胸だ、若造。)」




叔父さんは、ふんと鼻で笑った。




緊張で、知らず知らずのうちに拳を強く握りしめていた。




重い沈黙に。冷や汗が流れ落ちる。




「(…そんなに大切か、その女は。)」




「(はい、世界中の誰よりも。俺のこの目を、綺麗だと言ってくれた唯一の人です。)」




「(ほぅ?その目をか?ずいぶんな物好きだな)」




「(…叔父さん、ですから俺は…―――)」




「(もういい、言うな)」





叔父さんは俺の言葉を、手で制した。





…ダメだったのか、俺じゃこの人を説き伏せることは出来ないのか?




いや、諦めたくない。





「(いいえ、黙りません!貴方がわかってくれるまで何度でも言います)」




「(ふん。まったく、忌々しい)」




…叔父さんはそう吐き捨てると、ビッグ・ベンの見える窓際に歩み寄った。




後ろ姿からは、叔父さんが何を思っているのか伝わってこない。




「(俺が幸せになることが許せないのですか)」





俺のその質問には答えず、叔父さんはため息をついた。




「(忌々しい限りだ。あの男に、よくもここまで似たものだな)」




あの男…?




「(それは、俺の…)」




「(そうだ。お前の父親、桐野旭輝だよ。姿形も、その自分本意さも、まるで生き写しだ)」




父さんと母さんの結婚に、最後まで反対したのはこの叔父さんだと聞いた。




父さんと結婚しなければ、母さんは死ななかったかもしれない。



そう、思っているのかもしれない。



だから、母さんを奪った父さんを、憎んでいるのか…?






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