【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「(…っぅ、何をするんだ。)」
「(バカな男を殴って何が悪い。誰も俺を咎めはしないだろう)」
…なんだ、それは。
キースはエドガーと同じ、グレイブルーの瞳で鋭く俺を睨み付けた。
その迫力は、叔父さんに負けていない。
「(俺はバカな人間が嫌いだ。そして、お前はもっと気にくわない)」
「(そう、キースが俺を嫌っているなんて子供の頃から知っているけど?)」
「(当然だ。)」
キースはメガネを中指で持ち上げた。
「(昔から気に食わなかった。親父はお前を憎んでいるはずだった。憎い男に生き写しのお前が憎くて仕方ないはずだった)」
先ほど言われたことと被り、思わず眉をしかめた。
「(だが、いつだって親父が気にかけていたのはお前の存在だ)」
「(なんだって…?)」
「(憎いはずなのに、息子の俺たちよりもお前を気にかけていた。だから気に食わなかった)」
そんなはずは無かった。
いつだって俺はあの人に…。
「(親父の愛情を受けながら、一人殻に籠って不幸面をしていたお前が、ずっと許せなかった)」
「(……)」
「(俺はお前が嫌いだった。例え、親父がなんと言おうと。)」
わかっていたことなのに、キースの冷たい目に射すくめられ、何も言い返せなかった。
「(…だが今のお前は、いい目をしている。)」
「………はっ?」
思わず、素で反応してしまった。
そんな俺を見て、キースはニヤリと笑う。
「(自分の意志がある、真っ直ぐな目だ。オルドリッジの名に恥じない目をしている。やれやれ、女に気付かされるとは、情けない)」
…なんだよ、それ。