【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
…ところで今さらなんだけど、キースに殴られた意味はあったのだろうか?
あれは、キースの単なる腹いせか?
左頬に、まだ鈍く残っている痛みに顔をしかめた。
「(殴られた?)」
「(まあね。まったく散々だよ。空港を出たらジェシーがいて、右頬にビンタだ。叔父さんに会ったと思えばキースに左頬を殴られた。そして今度はお前だよ)」
「(ははっ、人気者だね。で、俺がアッパーでもお見舞いしたらちょうどいいんじゃないか?)」
「(やめてくれ)」
「(はっはっはっはっは)」
愉快そうに笑うエドガーを、本気で殴り飛ばしてやろうかと思ったが、なんとか思いとどまる。
「(それで、エドはなんの用で俺を待っていた?)」
「(いや、単なる見送りだ)」
なんだそれは…。
「(そこ、ため息をつかない)」
「(頼むからつかせてくれ…)」
「(そう言えば、ユズだっけ?いい子だね)」
「(…今思い出したけど、柚を誘拐しようとしてたね?)」
本気で睨み付けてやると、エドは軽く焦って早口で捲し立てる。
「(誤解誤解。お前と会わせてやろうとしてだけ。お前が覚悟を決めて、あの子と逃げてくれないかなってね?)」
…ようやく、エドの考えが読めた。
「(結婚をやめさせたかったわけか)」
「(そういうこと。不本意な結婚は嫌だろう?君も、彼女も。)」
「(自分の為のくせに、よく言う)」
「(…なんのこと?)」
「(わかってるくせに。彼女は意外と鈍いから、苦労するよ)」
「(それは思い違いだよ。…けどまぁ、心には留めておくよ)」
エドは、ニッコリと笑った。
こうして俺は、即効で日本へと戻る過密スケジュールを体験することとなった。
柚、待ってて。
今帰るから…。
一秒でも早く、柚の笑顔が見たかった。