【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「あたしを助けてくれたあの手は、アキちゃんだったんじゃないかって」
あたしより少し小さな手が、どこか懐かしかった。
あたしはあの手を、よく知っている。
そう、思った。
「…アキちゃんは、二度もあたしを守ってくれたんだね。」
ふわり、と空を見上げる。
山の上にある霊園だから、なんだか空が近く感じる。
…すぅ、と息を思い切り吸い込んだ。
そして空へ向けて、声を張り上げる。
「…ありがとうーーっ!!あたしっ、絶対っ!アキちゃんに届くくらい、歌うからー!だから、待っててねーっ!」
あたしの歌が届くまで、待っていて。
約束を、守ってみせるから。
「…よしっ。またね、アキちゃん」
あたしは、出口へ向けて歩き出す。
その時、風がふわりと突き抜けた。
その風に乗って、微かに聞こえたような気がして、あたしは微笑む。
―――待っててあげるから、頑張んなさいよね。
そんな、彼女の声が。
「柚」
その声に顔をあげる。
青空の下で、彼は微笑んでいた。
紫色の瞳で眩しそうにあたしを見つめる彼に、駆け寄る。
「もういいの?」
「うん。」
あたしたちは、並んで歩く。
これからもずっと。
「ねぇ、暁くん。」
「うん?」
「好きっ」
「…ヤバい、今すごくキスしたい」
「えぇっ!?」
あたしの歌は、いつも大切な誰かの為にあり続ける。
この声が、続く限り。
伝えたい想いが、ある限り。
いつまでも。
Fin.