【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
リクエストを尋ねたけれど、李織さんは何でもいいと言った。
だから、寝やすそうなバラードにしようと記憶を探る。
そしてあたしが最終的に選んだのが、最近話題になったバラード曲。
キレイなメロディーラインが、たくさんの人の心を掴んだ。
ちなみにあたしもその1人だったりする。
「決めました!じゃあ、聞いてください」
「…ん。」
ソファーに横になった李織さんが答えたのを確認し、あたしは早速鍵盤に指を這わせた。
前奏のキレイな旋律を再現しようとするけれど、耳で聞いただけだからイマイチ。
いやでも、大事なのは歌の方…!
そう思い直し、口を開く。
しかし…。
あれ?あれ?あれ!?
…どうも、上手くいかない。
歌に集中しようとすれば、指の方がおろそかになり、指に集中すれば歌の方が音を外す。
語り弾きって、こんなに難しいの…!?
しかもこのチョイスがいけなかった。
高音域な為、普通に歌っても難しい。
指はしょっちゅうつっかえるし、ひどい有り様だった。
けれどそれでも、なんとか一番だけは終わらせ、そろりと李織さんの方を見る。
「…柚。」
「は、はいっ」
「……目、覚めちゃったんだけど。」
思いっきり不機嫌な声に、あたしは縮み上がる。
やっぱそうですよねっ!ごめんなさいごめんなさい!!
「はぁ…。語り弾き、出来ないんなら始めから言って。」
「ごめんなさい…。」
あたしが肩を落とすと、李織さんはむくりとソファーから起き上がった。
そしてピアノに近寄ると、あたしの顔の前に手を差し出す。