【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
慌てて息を吸い込み、あたしの声はメロディーに乗る。
「…空の見える窓 いつもあなたは そこにいた…」
李織さんの旋律が、心地いい。
あたしの中に染み込んで、あたしの歌が溶けて、二人の音が混ざる。
それがなんとも言えず、気持ちよかった。
けれど、それもすぐに終わってしまった。
少し物足りないまま口を閉じる。
「…上手いね、やっぱ」
え?
「…歌。さすがだね」
鍵盤から指を離し、李織さんはどこか楽しそうに言った。
「ありがとう、ございます…。でも李織さんのピアノも、さすがです。すごく上手くて、思わず聞き入っちゃいましたよ」
「……そう?」
いつもより若干、返事が遅く感じたのは気のせいだろうか。
「…俺は、そうは思わないけどね。」
「あの…?」
李織さん…?
「…サービス。」
そう言うと、再び鍵盤に指を滑らせる。
奏でられたその旋律は、最近よく聞くアップテンポな曲だった。
聞いているだけで元気が出る、そんな曲で、あたしもすごく好きだ。
ちらり、と李織さんに目で合図され、あたしも合わせて歌った。
この曲なら、最後まで歌詞はわかる。
最後まで歌いたいなと思っていると、李織さんも同じことを思ってくれたらしく、間奏に入ってくれた。
どうやら李織さんも、この曲が好きらしい。
どこか楽しそうだ。
ちょっと、意外だった。
李織さんのピアノで歌うのは、すごく気持ちがいい。
暁くんのも気持ちがいいけど、まったく違う心地よさ。