【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「…柚。」
優しい声音とともに、ふいに伸ばされた暁くんの右手。
それは迷うことなく真っ直ぐ伸びて、あたしの左頬に触れた。
そして、クスッと笑みをこぼす。
「顔、真っ赤だけど。大丈夫?」
「―――っ!」
そんなことをされれば当然、余計に顔が熱くなるわけで。
顔の火事を消すみたいに、グラスの水を一気に飲み干した。
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あたしが食べ終わるのと、暁くんが食べ終わるのはほとんど同時だった。
既に時刻も夜の7時を回っていたので、あたしたちはお店を出ることにした。
結局、やっぱりお金は暁くんが出してくれた。
悪いな、とは思いつつも、ちゃんと“ごちそうさま”と伝えた。
すると暁くんは嬉しそうに、
「いえいえ。美味しかった??」
と言った。
あたしは素直に、“とても美味しかった。”と頷いた。