【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
「柚姫ちゃん、よく来てくれたね。」
そんな時、ふいに原田さんに話しかけられて我に返った。
視線を戻すと、優しい表情を浮かべた原田さんと目があった。
「もう来てもらえないと思ってたから、嬉しいよ。」
嬉しい…?
社交辞令だとわかってはいたけど、その言葉が嬉しくて。
あたしはようやく自然な表情を作ることができた。
「この前はごめんね。俺、無神経だったね」
悲しげに瞳を伏せた原田さんは、自分は悪くないはずなのに丁寧に謝ってくれた。
そんな原田さんに、あたしは慌ててマグネットボードを取り出して会話を開始する。
“原田さんは悪くないです。あたしこそ、変な態度取ってすみませんでした。”
それを見せて、頭を下げた。
すると原田さんはわたわたと慌て出す。
「いやっ、柚姫ちゃんは悪くないって。俺、よく知らないくせに首突っ込んじゃって…。」
いやいやあたしが…、とあたしも両手を顔の前で振る。
そんな譲り合いが2、3往復した時、どちらともなく急に笑いが込み上げてきて
原田さんもあたしも、顔を見合わせて笑った。