隣はあげない



名前を呼ばれて振り向くと、不安そうに立つ女の子がいた。


誰だっけ、この子?
みたことない気がする。


「あの‥紫藤くんと付き合ってるの?」


ああ、いつものか。


瞬間的に笑顔を作り、いつものセリフを口から流した。


「京とは1回も付き合ってたことないから」



嘘なんて微塵もついてない。


あからさまにほっとしたような顔をしたその子は重ねて聞いてきた。

「あの‥よかったら協力して欲しいんだけど‥‥」

いつもの展開。

つきそうになるため息をこらえながらごめんね、とちょっと困ったような声で優しく答える。

「協力してって言ってくれる子多くて‥全員に協力するには無理があるし、そしたら誰か1人だけ特別に協力する訳にいかないから」



この口上を口にすれば、常識あるふつうの女の子なら引き下がる。

たまにやっかみでこのセリフを使って悪口を言われることもあるが、それでもただ出来ない、とだけ言うよりましになった。

‥―――――あることないこと詮索されにくくなった、というのも含めて。

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