君のこれからを僕にください
それからすぐに卒業シーズンになってしまった。

「高橋先生いらっしゃいますか?」

卒業シーズンと一緒にやってくるバレンタインシーズン。
今年も何人かの生徒が僕にもチョコを持ってきてくれた。

「あ、ありがとう」

笑顔で受け取ってあいさつをする。
本当に僕は愚かだと思ったが、ドアが開くたび夏希ではないかと期待した。
そしてそのたびにその期待は打ち砕かれた。

僕が夏希にキスしたあの日から僕は夏希を見ていない。
風の噂によれば学校にはきているらしいが、ここには一切姿を現さなかった。

元々夏希がここに来なければ会うことはそう滅多にない。
今までどれだけ夏希がここにくることが当たり前になっていたか、痛感した。

でも夏希が来ることはなかった。

その代わりにきたのは卒業式の準備の係だった。

「いや高橋先生すいませんねー。人がいなくって」

僕は卒業式のための椅子の個数の確認だとか、
式に使われる体育館の確認だとか装飾だとか・・・。
とにかく忙しい用事を押し付けられたらしい。

椅子の個数の確認だなんて気が遠くなる。

気が重いまま僕は渋々体育館に向かった。

誰もいないはずの体育館。

気のせいだろうか、ボールの音が聞こえる気がする。

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