君のこれからを僕にください
春の風がやけに気持ちよかった。
今日は仕事もひと段落し、体調不良や怪我をした生徒も居なかった。

今日も占領してるのは、永岡夏希。こいつだけだ。

夏休み後、久しぶりに会った夏希は人が変わってしまったようだった。
いつも笑っているのが印象的だったが、いつも悲しい表情になってしまっていた。

心配して僕もチームメイトもクラスメイトも話しかけだが、
夏希は以前のように心を開いてはくれなかった。

しかし誰もが夏希に同情し悪く言うものはいなかった。
夏希のそれまでの人格がみんなにそうさせたに違いなかった。

それから夏希は附属の高校に進み、
なんの縁か僕も中学と高校両方を見る保健センターに異動になった。

お互い敷地内で、ほとんどの生徒は保健室を利用するのだが、
夏希は高校に入ってからここを隠れ家にしている。

あれほどまじめだった夏希が授業をサボるようになったのも中3の夏休み明けからで、
高3になった今も授業にはなかなか顔を出さないようだ。

いつもは夏希がここにきても、僕もいつもあまり話しかけたりしないのだが、
今日の僕は3年前を思い出したからか、カーテン越しに夏希に話しかけた。

「夏希ー?お前進路どうするんだー?」

「高橋に関係ないもん」

「昔のお前はもっと素直だったのになー」

僕がからかうと夏希は出てきてソファーに座って少しだけ夏希は笑った。

3年前は短かった髪も今では伸びてパーマがかかっている。
3年前は毎日ジャージだったのに今ではすっかり制服でスカートも短い。
耳にはピアス、筋肉質だった体格もすっかり女の子らしくなっていた。

あの頃はまだ幼かった笑い方も久しぶりに笑った顔をみたら大人になって綺麗になっていた。

「お前綺麗になったな・・」

「高橋に言われても全然嬉しくないよ」

笑顔で言う夏希に僕は安心した。
昔も今も夏希はやっぱり素直で繊細だった。

頑張りすぎてた分、今はただの休憩。

そのくらい神様だってもちろん許してくれるだろう。

春の風がそう約束してくれた気がした。

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