君のこれからを僕にください
次の日夏希は言った通りにやってきた。

「授業は?」

「授業に出るとはいってないもんねー」

いつもはすぐにベットで寝てしまう夏希だったが今日は違った。
ソファーに横になって仕事をしている僕をみている。

「高橋は毎日輝いてるねー」

「なんだよ急に。仕事の追われてるだけだよ」

「そのうち高橋も結婚しちゃってさー、パパになっちゃうんだろうね」

「そんなこと言うなんて珍しいな。なんかあったの?」

ううん、と首を振るとそのまま夏希は寝だした。
スースーを寝息が聞こえる。

「まったくもう・・もう冬なのに風邪引くぞ」

僕はベットから毛布をひっぱりだして夏希にかけた。
ずるっと落ちた夏希の手を元に戻そうとしたとき、
寝ぼけている夏希は僕の白衣の袖をつかんだ。

「た・・かはし・・」

寝ている夏希の顔がかわいくて、僕は思わず自分の立場を忘れそうだった。

気がつけばもうもうすぐ夏希に出会って4年になる。
若い養護教諭ってだけで少しはもてたし、告白してきた生徒も何人かいた。

でも、一番近いはずの夏希とはそんなことは一切なくお互いの信頼の上での関係だった。

僕が夏希のことを好きだなんて感情もないし、夏希もそうに違いなかった。

でもあと数ヶ月で夏希は卒業していってしまう。
僕がこうやって夏希に毛布をかけたり、夏希が僕のところにくるなんてことはもうなくなってしまう。


そう思うとなぜか僕は焦りを感じはじめていた。

僕の教員生活にはいつも夏希がいて、
何かに詰まったときも夏希が喝をいれることもあった。

そんな麗しい関係。

でもあと数ヶ月だ。

冬の寂しさが僕の心を蝕んでいた。



< 9 / 20 >

この作品をシェア

pagetop