27年後の王子様





私と同じくアルバイトから社員になったクチの聖子さんは現在32歳。


高校時代にハピーズ飯崎店でバイトを始めた頃、彼女は既にそこで働いていた。

あの頃の店長代理が聖子さんだったのだ。


それから社員になり、今は別の『みかづき屋』3店舗で店長をやっている。




歳の割りに若く見える聖子さんは気ままな独身生活を楽しんでいて、私は昔から彼女に憧れていた。



高校生の頃、こういう大人になりたいなぁ、と思ったものだ。



綺麗で、仕事がデキて、自立した、カッコいい大人に。






「新店舗どうです?やっぱり新しいショッピングモールだし、売り上げ良いですか?」


「う〜ん、最近は落ちついてきちゃったかなぁ。それより、従業員の方がねぇ〜…。」


聖子さんは肩を竦めた。




「どうかしたんですか?」


「オープンして1年しか経たないのに、オープニングで入ったバイトの子がもう二人辞めてて…。
しかも、このクソ忙しい時期にもう一人辞めそうなのよ。」


「人手ヤバいんですか?」


「まぁね〜。」




煙草の煙を吐き出して、聖子さんの視線は煙の行方を追いかけていた。




「従業員の育成って本当難しいわ。」


そう言って、聖子さんは天井を仰いだ。



「本当、そうですよねぇ。ウチも色々大変で。」


「色々?」


「…まぁ、色々。」






佐倉くんの事とか……佐倉くんの事とか、佐倉くんの事とか。




……なんて言えないけど。






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