27年後の王子様
深い溜め息を吐き出して、コンクリートの壁に寄りかかる。
アルコールで熱っぽくなった頬にコンクリートのひんやりとした冷たさが心地いい。
少し飲み過ぎたかもなぁ、なんて思っていると携帯電話が鳴った。
再び溜め息を零して表示を見ると、相手は実家の母だった。
つい、億劫だと思ってしまう。
電話の内容には大体想像がついてしまうからだ。
「もしもし?」
『もしもし?芳乃?』
電話の向こうにいる懐かしい母の姿が目に浮かんだ。
最後に会ったのは今年の1月。
もうすぐ1年が経とうとしている。
マンションから実家は、そう遠くない。
だから余計に、なのか、
毎日が忙しいせいもあって、私はあまり実家に帰らない。
『そろそろお米なくなってきてるんじゃない?取りに来ないなら送ろうか?』
「大丈夫。まだあるから。一人暮らしなんだから、そんなに食べないわよ。」
すでに定年退職した父の趣味は米作り、野菜作り。
両親はよく送ってくれるけど、
私しか食べないお米はいつまで経ってもなくならないし、せっかくの野菜も腐らせてしまうことが多い。
申し訳ないとは思うものの、持て余している、というのが正直なところだ。