Beast Prison 館長さんEDCBA
「お、始めたなエルの奴。まあ、俺達が時間稼ぎしてやったんだから、これくらい当然だよな」
「ああ、間一髪だったけどね。それよりクマ、僕達もそろそろ」
 分かったよと答えて立ち上がった大柄な劣性種は、体を捻ってボキボキと首を鳴らす。隣の劣性種も黒く真っ直ぐな長髪をひとつに纏め、動きやすいよう身なりを整えた。早朝から行方を眩ませていた二人の動向が今の今まで“人間”達にバレなかったのは、ひとえに彼らの嘘の報告のお陰である。
 互いに目配せをして微笑んだ二人は、“人間”達の監視の目が緩んだその隙に、工場内に与えられた持ち場をそっと離れていった。目的はただ一つ、しかしその前途は多難であり、成すべき事は山積みである。しかし何はともあれ、まずは姿を隠すのが先決だった。いつまでも人目につく所をウロウロしていては、速攻で“人間”達に取り囲まれ尋問されてしまう事だろう。
“人間”は劣性種に対して容赦が無かった。口を割らなければ、指の一本や二本は眉一つ動かさずにチョン切るという噂すらある始末だ。事実、奴らに反抗して腕や足を失った劣性種は数知れず、命を落とした者も決して少なくはない。見つかる前に自分達も隠れる、それが彼等二人が次に成すべき最初の仕事なのだ。
 放送に対して興味無さげに作業を続ける同胞達を尻目に、彼らは奥まった狭い通路の闇の中へと姿を消す。そうこうしている間も、館内は慌ただしさを増していく一方だった。警備員達の不安とエルの暢気な声が、広大な“獣舎”を覆っていく──
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