Beast Prison 館長さんEDCBA
 薄暗くひんやりとした空間の沈黙は、謎の館内放送によって唐突に打ち破られた。その異常事態に、淡々と作業こなしていた劣性種達は思わず手を止める。普段ならばそんな彼らを“人間”達が即座に罰するのだが、今回に限っては誰も彼らを咎めたりはしなかった。“人間”達もいきなりの事態に困惑している様子である。
 それもそのはず。今しがた個体コードL0000と名乗った声の主は、劣性種と呼ばれる“人間”にあらざるものだった。“人間”達からしてみれば“獣舎”で使役されるだけの家畜なのだ。稀に例外的に反抗的な個体こそあれ、概ね従順で“人間”よりも体力に優れるのが劣性種達である。
 そんな家畜が館内放送をジャックするなんて事だけでも異例の大事件なのに、名乗りをあげた通り実行犯が普段から“人間”達に反抗的だったL0000ともなると、“人間”達の注意が集まるのも無理は無い。彼は既に何度も特別懲罰房に放り込まれ、地獄の責め苦のような“再教育”を受けた、頭に超の付く問題児である。
 皆が固唾を飲んでスピーカーを見上げる中、L0000──通称エルは悠々と演説を始めるのだった。
「みんな、よく聞いてくれ!!」
 全てを見下ろすかのようなスピーカーは、強い声を若干音割れさせながら小さく揺れている。

 ──我々劣性種は“人間”に衣類、食事、そして就寝場所も与えられた上に、ここ“獣舎”の中で就労しているる限りは外敵や病気の脅威に晒される事もない。我々は人間の言う事さえ聞いていれば、ほぼ間違いなくこの閉ざされた箱庭の中で、安全に一生を終える事が出来るだろう。何も心配せず、ただ単調で代わり映えのしない、それでも安定した明日が約束された日々を生きる事が出来るんだ。

 そう、彼ら劣性種は“人間”達の家畜だった。工場に閉じ込められ、日々同じ作業を繰り返すだけの労働力であり、“人間”にとってそれ以上の意味を持たないものなのである。また、その認識は劣性種達にも同じ事が言え、彼ら自身も長らく“人間”に管理・飼育されてきたが故に、その現状に疑問を抱く者などいないのである。
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