Beast Prison 館長さんEDCBA
 何を今更当り前のことをとでも言いたげに、スピーカーを見上げる劣性種達は怪訝そうな表情を浮かべ、あるいは首をかしげている。工場内の“人間”達はあっけに取られ、動けずに立ち尽くしつつも眉を寄せていた。スピーカーの声は少し息を吸い、さっきよりも多少語気を強めて演説を続けた。

 ──しかし、その安全を得る代償に、我々は非常に過酷な労働を強いられている。作業中に倒れる仲間を、そして倒れた仲間にすら鞭打つ“人間”達の非道さを、諸君は見たことがあるはずだ。
 我々は牛や馬ではない。何故なら確たる意志を、高い知性と自我をもっているからだ。それらは決して牛馬に劣らない……いや、明らかにそれ以上なのだ!! 牛馬が言語を理解するか? 頭を使って精密な作業ができるか? 我々のように効率よく作業できるか? いや、絶対に不可能である!
 その上、我々は“人間”と同じ姿をしている事を忘れてはいけない。それなのに、扱いはまるで牛馬……家畜と同等というのはおかしくはないだろうか?
 皆はそれを疑問に思った事もないだろう。誰も自由を知らず、それを当り前だと思っているのが現状なのだ。しかし、考えて欲しい! 我々と“人間”の差とは何だというのだろうかという事を! 我々が蔑まれ、過酷な環境で飼育・労働されなくてはいけない理由をっ!!

 その言葉と共に“人間”達の無線機は無機質な音を上げた。無論、反応したのはその持ち主だけであり、劣性種達はいまだそろって上を見上げている。それも、不思議そうに。
 誰一人として、スピーカーから放たれる主張に対し、肯定も共感もしていなかった。自分達が“製造”される前から当り前に受け入れられてきた事を根こそぎ否定する彼の言葉は、他の劣性種達には理解しがたかったのである。そもそも劣性種達は、彼が何を言っているのかすら正しく理解してはいない事だろう。その証拠に、あるものはため息をつき、あるものは欠伸さえしている有り様であった。
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