わたしとあなたのありのまま
「あそ、じゃ、いいや。
 他当たる」

「ちょ、ちょっと待ったぁ!」

 電話を切られてしまう、という危機感に煽られ、思わず叫んでしまった。
 フッという空気が漏れるような音が受話器越しに聞こえた。

 田所、今鼻で笑いやがった。


「意地張ってんなよ、バーカ。
 そういう駆け引きってのはなぁ、お前みたいな色気のない女じゃなくもっとこう、イイ女が……」

「田所くんは忙しいのでは?」

 終わりの見えない悪口を、途中で堰き止めてやった。
 けれども、ああそうだった、と素直に認めたので、肩透かしをくらって、それ以上何も言い返せなかった。


 なんだ、本当に忙しいんだ。


「子守り頼めねぇかなぁ?」

 田所が珍しく下手(シタテ)に出てくるので、それでまた、私は肩透かしをくらう。
 何度くらえばいいのだ。


「どうして私が。
 田所には彼女がいるじゃん」

 言ってから、「いや、これ駆け引きじゃないからね。本気で思ったことだから」と慌てて付け加えた。


「なんなんだよ!?
 いちいち、めんどくせぇな」

 呆れたようにそう言うと、田所はさらに続けた。

「エリカは子ども嫌いなんだよ」


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