わたしとあなたのありのまま
「もう昼じゃねぇか」

 と文句をたれながら、自分の二の腕で鼻の辺りを拭う。
 その仕草にドキリとした。
 びっくりするぐらい眩しく映った。

 手にはめている軍手は真っ黒に汚れている。
 『働く男』的な感じで素敵です。


 そんな田所にボーッと見とれていると、

「汚ぇ(キタネェ)とか、そういう苦情は受け付けてませんから」

 上体を少し倒して私と目の高さを合わせ、憎たらしく言う。

 その逆なのに。


 田所は、左手で右手の軍手を慣れた手つきで外しながら私と擦れ違い、肌色が露になった右手で、ガラリと事務所のスライドドアを開けた。

「アンパン●ンのお姉さん来たぞ」

 入口から身を乗り出すようにして田所がそう言うと、兄妹は揃ってガラスの向こうから私を見た。
 机に向かって俯いていた女性も顔を上げ、満面の笑みを私に向けた。


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