わたしとあなたのありのまま
 慌てて田所が、Tシャツに腕を通しながらステレオへと向かった。


 田所の部屋は、明るく軽快な音楽に満たされ、ゆきさんの声は聞こえなくなった。


 私が呆然としていると、田所が気まずそうに苦笑して、

「あの人、見かけによらず激しいよな」

 ポツリとそんな呟きを口から落とす。


 そんな風に、泣きそうな顔で笑わないで欲しい。
 私まで苦しくなる。
 心がズキズキ痛む。


「私、帰るね。
 肉はまた今度でいいや」

 言って立ち上がると、俯きがちに田所とすれ違って玄関へ向かった。
 また私は逃げようとしているから、田所の顔を直視できるはずがない。

 けれども、すぐさま田所に手首を掴まれ、私は前のめりになって立ち止まった。


 ゆっくり振り返ると田所は、やっぱり泣きそうな顔で、縋るような瞳で、

「なんで?」

 と理由を問う。


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