わたしとあなたのありのまま
「あんまり遅くなると、お母さんが心配するから」

 そう答えると、「嘘くさ」と、田所は冷ややかな薄い笑みを浮かべた。


「嘘じゃない、放して」

「ほんとの理由言ったら放す」

 真っ直ぐ私を見据え、強めの語気で言った。
 田所の切なげな視線が痛い。


 田所は今、一人になりたくないのだと思う。
 けれども私は、そんな田所の傍に居たくない。

 苦しいから。
 辛いから。


 結局、私は田所よりも自分のことの方が大切なのだ。
 私の気持ちなんか、その程度だ。


「もうしんどい。
 苦しんでる田所を見るの、しんどいよ。

 田所は、ゆきさんのこと……」

 そこまで言っても、田所は驚くこともなく、静かに私を見詰めながら、次の言葉を待っている。

 続く言葉はわかっているはずなのに。
 私に言わせようなんて、酷いよ、ズルいよ。


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