わたしとあなたのありのまま
 ギュッと唇を結んで、今にも溢れそうな涙を堪えた。

 そうして私が黙っていると、

「俺から逃げるんだ!?」

 田所がそんな言葉を吐く。


「田所だって逃げてるじゃん!
 ゆきさんのこと、すごく好きなのに、逃げて……
 そして苦しんで。

 そんな田所見たくない」


 途端、堰を切ったように涙が勢い良く流れ出た。

 それでも田所は、私から目を逸らさない。
 手も放してくれない。


「だから……」

 そう口を開いた田所の顔は、みるみる歪んでいった。

「だから、俺の気持ちをお前に向かせてみろっつってんだろーが」

 両肩を掴まれ、壁に乱暴に押し付けられた。


 霞む視界の中でも、田所の悲痛な表情は、はっきりと映った。


< 133 / 318 >

この作品をシェア

pagetop