わたしとあなたのありのまま
 聞かれてから、もったいぶって話したかったのに。
 チッ。

「あのね、実は土曜日、田所と……」

 そこまで言うと、綾子のお尻は再び椅子の上に着地した。
 嬉しいのと、照れくさいのとで、へへっ、と笑ってしまった。

 あ、また離陸。

「待って、話す、話すから」

 再び着地。


「さっさと話してよ。
 爆弾オニギリ売り切れちゃうじゃん!」

 苛立たしげに綾子が言う。
 相変わらず冷たいなぁ。

「うん、あのさ、田所が、
 『ありのままのお前に、
  俺は惹かれ始めてる』
 って言って、その、
 キ……キスを……」

 最後の『キス』のところは、自分でも音になっていたかどうか不安になるほどの小声になってしまった。

 綾子に伝わったかどうかを確認すべく、その表情を凝視する。

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