わたしとあなたのありのまま
 誰もが遠巻きに見ているだけで、止めようとしない。
 目の前の山田はとても恐かったけれど、私が行動を起こさなければと、何故だかこの時、そんな使命感に衝き動かされた。


 山田に駆け寄った。
 でも、山田の手足が届かない程度の距離は保持。

「山田ぁ、何やってんの?
 みんなが見てるよ。
 恥ずかしいよ?」

 背後から弱々しく声を掛けてみた。

 山田は恐ろしい顔のまま私を振り返り、

「うるせぇ、秋山には関係ねぇ。
 引っ込んでろ!」

 と、怒鳴る。
 なんだよ、山田のくせに。


「あっそ、私に関係ないならいいや。
 じゃ、どうぞ続けて。
 私、引っ込んでるから」

 ふて腐れて言い返すと、それが予想外だったのか、山田は一瞬「あれ?」っという顔をした。


 山田の向こう側で、倒れたままの田所が、プッと小さくふきだした。
 途端、山田は田所の方へと身体ごと勢い良く向き直った。

 田所は、一応我慢はしたけれど無理だった、とでも言いたげに、気まずそうに山田に苦笑して見せた。
 こんなシリアスな状況でも、緊張感のかけらもない田所に呆れた。


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