わたしとあなたのありのまま
「だから、私と田所は付き合ってないって言ってんじゃん」

 そんな横顔を眺めながら、優しく教えてあげた。

「俺も悪かったと思ってる。
 エリカ先輩の前で言うべきじゃなかった」

 私の方へ顔を向け、山田は気まずそうに苦笑した。


「けどあいつ、『なんで別れなきゃなんねぇんだよ!?』とか開き直りやがって。
 ま、ふてぶてしいのはいつものことだから、この辺までは、想定内だったわ。

 けど、
 俺が『秋山泣かすなよ』っつったら、あの野郎、『もう何べんも泣かした』っつって笑いやがったんだ。
 そんでムカついて……」

「ほうほう、なるほど」

「お前、なんだよ、他人事(ヒトゴト)みてぇに」

 山田はムッとした顔で、私の頭を拳で軽く小突くと、フワッと微笑んだ。
 小突かれた場所をさすりながら、私もへへ、と笑った。


 山田のことが、一瞬とても格好良く見えて、照れくさくなった。
 けれど、言わなかった。
 期待させてしまうかもしれないような言葉は、今は避けるべきだと思う。


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