わたしとあなたのありのまま
残された田所は、顔から胸まで濡れたまま、ピクリとも動かずそのまま座っている。


放っておけなかった。


気付くと、私は田所の傍らに立っていて、ポケットから取り出したハンカチを、田所に差し出していた。



「拭けば?」

言うと、田所はゆっくりと私を見上げ、でもすぐに視線を逸らして再び正面に向き直る。


「自分で拭けないの? 私が拭いてあげようか?」

精一杯の意地悪を言ってやった。


田所は、キッと私を睨み付け、私の手からハンカチをひったくった。



踵を返して、自分の居た席に戻ろうとすると、すかさず背後から手首を掴まれた。恐る恐る振り返ると、私を見上げる田所が、

「まぁ、座れ」

と、自分の隣の空席を目で指した。


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