わたしとあなたのありのまま
 やっぱり田所は、
 最低最悪の性悪男でした。

 『処女捨ててこい』なんて、メチャクチャな要求、極悪非道だ。
 私に体を売れってことですか?

 しかも、私一人で出来ることじゃないじゃん。
 相手がいるし。

 相手……


「あ」

 私の脳裏に不意に或る人物の顔が浮かび、思わず声が出た。

「なんだよ、いきなり」

 田所が訝しげに眉を顰める。


「山田に頼んでみる」

 言うなり、踵を返して階段を降りようとすると、すぐさま背後から腕を掴まれ、引き戻された。


 振り返るとすごく近くに田所の顔があって、鼓動がけたたましく全身に響き始める。
 けれどもその顔は、未だかつてないほどの不機嫌顔だった。


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