わたしとあなたのありのまま


 さっき、田所がゆきさんと交わした、訳のわからない抽象的な会話の意味を、私はようやく理解した。


 田所は、
 ゆきさんのことが好きなんだ。

 ゆきさんは……?


 ゆきさんは、

『私の方こそ、いつもゴメンね』

 と言っていた。


 田所は、ゆきさんの『あの時』の声を、いつもこの部屋で一人、聞いている?
 一体、どんな想いで……


 ゆきさんを諦めるために、田所はエリカ先輩と付き合っているのかもしれない。
 だとしたら、間違っている。

 エリカ先輩に対して失礼だ。
 エリカ先輩を傷付ける。


 でも……
 部屋の空気を漂って、田所の痛みが伝わってくるようで、胸が苦しくなった。 
 自分の意に反して視界が滲む。


「田所、私帰るね」

 どうにも居たたまれなくて、そう言った。
 私はその場から逃げようとした。


「うん」

 と田所が重そうにその身体を持ち上げ、立ち上がった。


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