たった一人…。



「どうしよ。私、産みたい。でも……」



悩めば悩むほど無理だと思った。
一晩中泣いて、眠れないまま朝を迎えた。

鏡を見たら、目が腫れてる。

当たり前か…。

目を腫らしたまま仕事へ向かった。

休むわけにはいかなかった…。

彼にちゃんと今の気持ちを伝えたいから。




いつもと同じはずなのに、何かが違う。

お腹をかばう自分がいる。

毎日の日課になってる出勤後のコーヒー。

でも、今日はコーヒーじゃなくグレープジュース。

そんなところも気にする自分がいる。


でも、周りに気付かれるわけにいかない。
そんなの絶対にダメ。

いつも通り、業務に取りかかる。



ちょうどお昼がくる頃、彼が営業所にやってきた。

何でかな、目を合わせてくれないんだけど…。



「あの…お話しがあるんですけど。」

今の私にはその一言が精一杯の勇気…。



あっ。初めて目が合った。

「柿田、コーヒー。」



それ以外の言葉はない。

無愛想なまま、2階にあがって行っちゃった…。




私の中の不安が、余計に込み上げる。

やっぱり無理だ。無理だ。無理だ…。

溢れてきそうになる涙を必死にこらえて、外の自販機に走る。


あっ、走ったらダメだった。

ごめんね、赤ちゃん…。

お腹に手をあてて、優しく撫でてみる。


あったかい、私のお腹。


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