たった一人…。

次の日の朝、目を覚ますと彼の姿が隣にない。


慌ててリビングに行くと、コーヒーの匂いに包まれて彼が座っていた。


全身が痛い…。
痛みを感じるたびに自分に起こった事がフラッシュバックする。


やっぱり現実なんだ…。



「コーヒー飲むか?」

小さく頷いて彼の前に座った。



「昨日は一人にしてごめん。怖くて不安でいっぱいだったろうに。全部、俺のせいだ。俺のせいなんだ…。」


「おまえに辛い思いをさせてごめん。」

と、彼の頬につたう涙…。



そして。

「昨日、あれから大山に会ってきた。おまえのかたきもけじめもとってきた。会社に告発文も出してきた。おそらく大山の解雇は間違いないだろう。」


「それと、家に戻って嫁に離婚の話をしてきた。」


………。


彼のせいで私が襲われたって…。

何があったの…?


それに、離婚って…。

どうして…。



「ありがとう。でも、俺のせいって…。何があったの?私には話せない事…?」


「それに、今までも奥さんには寂しい思いをさせてきて、今もリハビリをしながらなんでしょ?」


彼は何も答えてはくれない。
私には話せない何かがあったのは確かだ…。


黙ったまま、彼はうつむく。


「秀の気持ちは嬉しいけど、少し考えさせて…。」


私の言葉にも彼は反応せず、
そのまま二人は黙ったままだった…。
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