たった一人…。


家に帰る途中の車内はとても静かだった…。

聞こえるのはエンジン男とタイヤの音だけ。


静かな車内は私を不安にさせる。

薄暗い外と車内という密室。


怖い…。


自然と手をぎゅっと握り、力がはいる。

唇をキュッと噛み、下を向く。

汗が体までつたう。

体が小刻みに震えて、呼吸は少し速くなる。



その様子を彼は悲しそうに見つめ、私の手を優しく包んでくれた。

少し安心する。

ここに居るのは彼だと常に自分に言い聞かせる。




「送ってくれて、ありがと。」

「連絡はしても良いんかな?」

「うん、今まで通り変わらないよ。気持ちの整理をしたいだけ。」

「わかった。」




連絡するって言ったのに…。


あれは、きっと彼の優しさ。
私を不安をさせないための…。



…嘘つき。


彼から連絡がないまま10日が経った…。



私は今日から仕事に復帰する。



会社に行くまでの時間がすごく長く感じる。

人の話し声に敏感になる。

駐車場に着くと、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

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