たった一人…。

私にとっては、会社=彼との思い出。

会社に着くと、余計に鮮明にいろんな事が甦る。


「おはようございます。」

事務所に入り、タイムカードを押す。
すると背後から、

「奈央ちゃん、おはよう」
と、私に話しかける人の声。振り返ると、そこには江本さんが立っていた。

あ、江本さんか。
さっそく、名前呼び(笑)

「あ、江本さんおはようございます。」

軽く会釈して、いつものように外の外の自販機へ行った。
すると、後ろから江本さんもついて来て、

「奈央ちゃん、何飲む?」
と、手を伸ばしてお金を入れた。

「え。自分で買いますよ。申し訳ないし。」

「いや、良いよ。気にしないで。それに江本さんて呼び方、何か恥ずかしいしやっぱり加奈さんとかが良いな。」

「…。はい。しばらくは慣れないと思いますけど、少しずつ。
じゃあ、私はコーヒーの砂糖入りで。」

「はい、どうぞ。奈央ちゃん、コーヒーは砂糖だけ入れるんだ?」

「はい。元々はブラックだったんだけど、今はこの飲み方に慣れちゃって、ずっと砂糖入りです。」

「ふ~ん。」

ん?
何だ、今の意味深な笑みは…。

「ありがとうございます。えっと、加奈さんは何にしますか?」

「私はグレープジュース。」

「女の子ちゃんですね。」

「私、本当はジュース嫌いなの。でもね、以前私に飲めって言った人が居て。それから毎日飲んでるの。」

「へぇ、そうなんですね。美容に良いとかですか?」

「いや(笑)言ったの男よ(笑)」

思わず顔を見合わせてクスッと笑ってしまった。


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