たった一人…。
二人が飲み物を手にして立ち話をしてると、遠くに懐かしい姿が見えた。
私がずっと待ってた姿。
そう、彼の姿が近づいてくる。
一緒に彼の香りも近づいてくる。
「うそ…。」
どうして?どうして、いきなり。
心の準備が間に合わない。
心臓がバクバクと音をたてて鳴ってる。
「あ、秀人!」
え…。
今、秀人って呼んだ?よね…。
「おまえよー、そうやって呼ぶなって何度言ったら分かるんか。」
え…。もしかして、この二人って…?
バクバクと心臓が鳴る私の横でニコニコとしながら彼が近くまで来るのを加奈さんが待ってる。
「お疲れさん。」
私を見て、ちょっと微笑んでくれた。
「コーヒー。」
財布を私に投げ、背中を向けて行った。
私の手にある財布を加奈さんが取り、お金を入れる。
私は何も言えず、ただ見てるだけだった。
以前は私が買って2階に持ってあがるのが当たり前の事だったのに…。
加奈さんは、慣れたようにコーヒーのブラックの砂糖入りを押す。
「豊広さんが砂糖入りってご存知なんですね。」
「まぁ、そりゃあね。」
出来たコーヒーと財布を私に渡し、
「はい、持って行ってあげて。」
と、笑った。