たった一人…。
「ただいま。」
「ああ、おかえり。」
「私、ずっと不安だった。仕事に没頭すれば何も考えずに済むって思ってた。嫌な事も全部。だからこそ復帰もして、平気なふりまでして仕事してた。でもね、仕事をすればするほど秀人との事を思い出す。家で1人で居ても思い出す。結局、ずっと秀人の事を思ってた。」
「俺も同じだったよ。部署が変わって、おまえが何してるか分からない分、余計に考えてた。どうしてあの時、おまえの側に居なかったんだろうって。すまん、不安な思いをさせて。」
ううん。と首を横に振って、彼の背中に回した手の力を入れる。
ほんの少し、時間が止まる。
無音の空間を改めて感じ、自分の中の恐怖がよみがえる。
「奈央?」
いつの間にか、私の体は小刻みに震えていた。
呼吸は苦しくなり、立っているのも辛い。
「いやー!」
私は彼の体を押し退け、その場に座り込んだ。
「奈央!奈央!」
彼は必死に私の顔を持ち上げで目を合わせる。
「大丈夫、大丈夫だから!俺の顔見て。ちゃんと見て。」
彼は大きくゆっくり深呼吸して、私の呼吸も静めてくれる。
「…。ごめんなさい…。」
最低だ、私。
彼に抱かれてるの分かってて、それなのに怖がってる。
「さっき、おかえりって言ってくれたよね。でも、私、秀人って分かってるのに怖くなった。急に怖くなった…。ごめん。こんなんじゃ、私は秀人のところにかえれないよ。」
呼吸も落ち着いた私はゆっくりを自分の気持ちを伝えた。
「慌てなくて良いよ。仕事に復帰して、この空間に居ることすら辛いはずなのに。ごめん、俺のせいで。」
秀人のせいじゃない…。
それに、責任とかで側に居て欲しくない。
ただ、愛し合いたいだけ。
「秀人。すぐ、昔のようには戻れないよ…。ごめん。秀人にはちゃんと愛してもらいたい。責任とか、そんな思いがあって側に居てくれるのはちょっと違う。今の私は、秀人に抱かれる自信がない…。」