たった一人…。

彼が、温かいココアを入れてくれた。

座ってゆっくり飲んでなさいと、頭を撫でてくれる。


美味しい…。生姜入りのココア。

こういう細かな気配りが彼の優しさ。

私の大好きなところ。


台所から、魚の焼ける匂いがする。


少し待ってると、おぼんに乗せられた小さな鍋が目の前に運ばれてきた。

蓋をとると、さっきの匂いの犯人がキラキラしたお粥に浮かんでる。

匂いの犯人は白身魚の味噌焼き。


出来上がる頃には周りも片付いてて、簡単に家事もできちゃうところも彼の良いところ。


「冷めないうちに、食べて。その後、薬飲んで熱計って。」

まるで、お父さんだ。

学校を休んだ娘に、言い聞かせてるみたい。


食欲のない私も、『お父さん』の言う事は素直に聞かないといけない。怒られちゃうから(笑)

ゆっくり、少しずつ食べていく。

ほとんど食事をとってなかった私は、ゆっくりとお粥を食べすすめる。


半分くらい食べた私のお腹は限界だった。

熱を計ると、37.9℃。

少し、熱が下がってる。

食べ残したお粥を見ながら彼は少し困った顔をした。
その後、体温計を見て、ちょっとだけ笑顔になった。


彼に連れられベッドに横になった私は、彼の手を離さなかった。

シングルサイズのベッドは、二人ではとても狭く、彼の肌が私に密着する。

彼の吐息が私にかかる。


大丈夫、怖くない。

私は自分自身に言い聞かせた。


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