たった一人…。

電話を切った私は、だるい体を起こしベッドを整える。

彼がこのベッドに寝てたかと思うと、自然と顔がにやける。

冷蔵庫をあけると、キレイにお皿に盛られた蒸し野菜と焼き魚が入っていて、テーブルの上にはお茶碗と箸。

彼はどこまで完ぺきなんだろうか…。


私は洗面を済ませ、簡単に服を着替えた。

窓を開けると風が心地よい。

19時。9月の今は、もう外はすっかり暗く、風も冷たくなっている。

窓を閉めて、外の匂いが少し残る部屋が気持ち良い。


それから間もなくして、香理がやってきた。


「どう、調子は?」

「うん、あんまり。でも、香理か来てくれたから元気!」

「うそ。豊広さんが心配してくれてるからでしょ?」

「うーん、確かにそれもあるけど、でも香理に話したい事があったのは本当だし嬉しい。」

「そっかぁ。実は、私も話したい事があるんだ。」

「そうなん?じゃあ、先に香理から話して?」

「うん…。」

私は、香理が持ってきてくれたケーキをお皿に取り分けながらココアを入れる。

何だか、話しにくそうな感じ。

少し沈黙があったのち、香理はゆっくりと話し始めた。

香理の彼の田村くんは結婚してて奥さんがいる。

結婚してから不妊治療を何年も夫婦で頑張ってて、その事が原因でケンカする事もよくあったらしい。

でも、田村くんは香理と出会って不妊治療もあまり積極的ではなくなっていたらしい。

ただ、今回奥さんの妊娠が分かり、それを素直に喜んでいる田村くんの姿を香理はあまり良くは思わないと。

しかも、その事で別れるのではなく、これからも香理との関係を続けていきたいも話しているらしい。

その事で香理は不安があるから、今後の事を悩んでいるらしい。

最近の田村くんの態度も以前とは違って、それが余計に香理を不安にさせているんだと。
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