たった一人…。
「…俺は、まだ彼女の事が忘れられない…。形あるものは捨てれても、思い出は捨てれずにまだいる。嫁の事も息子の事も放棄したわけじゃないし、そういうわけにはいかない。俺がやってる事は許される事じゃないんだ。それでもおまえは良いのか…?」
私は黙ったまま、ゆっくりと頷いた。
沈黙が続く…。
突然、雨が降りだし2人の服が濡れる。
良かった、沈黙のままだと気まずかった。
慌てて二人は走って車に戻るが、すでに体に貼り付いてしまう位に濡れた服。
透けてしまいそうで、腕組みをして隠す。
恥ずかしい…。
「どこかで乾かすか。おまえさえ嫌じゃなければ…。
風邪ひいても困るし。」
私の方は見ずに、まっすぐ前を向いたまま小さな声で彼が言った。
えっ?
一気に脈が速くなる。
すぐに行き先はわかった…。
小さく頷き、恥ずかしくなった私は少し顔を外に向けた。
二人同時にくしゃみなんかして、より緊張が増す。
きっと、私の顔は真っ赤。
手汗も凄いし、ドキドキという効果音が聞こえる。
それからしばらく車を走らせ、道沿いにあるホテルの駐車場に停まった。
「大丈夫か?」
私は小さく頷き、シートベルトを外した。