狂犬病予防業務日誌
 脳を支配していた映像が消え、おれの老け顔が窓に映る。

 血のついた千枚通しが手からすり抜け、カランカランと転がる。

 ずっと握っていたのに気づかなかったおれは間抜けを通り越して犯罪者となってしまった。

 大変なことをしてしまった。

 しかし、気持ちのどこかでいつかやるんじゃないかと思っていたことも事実。

「妻じゃなくてよかった」
 はっきりとした独り言が口から発せられた。

 本心だと信じたかった。
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