狂犬病予防業務日誌
「なんだって?」
「本当だ。ロシア語だ」

「どれどれ」
「地球上に一億丁存在する我が母国から生まれた銃の名前をつけるなんてセンスあるな」

「世界で最も人を殺している銃だ」
「女、子供でも簡単に扱えるからな」

「中東で子供がカラシニコフをぶっぱなしている映像をニュースで見たぜ」
 自分の名前の意味をはじめて知った。

「気に入った、おまえを連れていくぞ」
 抱きかかえられ鉄の塊に乗ることに成功した。
 
 新しい飼育者を得た喜びに心が躍った。

 数時間後に鉄の塊は海上を走りはじめた。

 気分が悪い。動き出したばかりだから乗り物酔いじゃない。

 涎がとめどなく口から流れ落ちる。強烈な眠気も襲ってきた。このまま眠ってしまうと二度と目を覚ませない気がして体が震えた。

 エンジンオイルの臭いが圧縮された空気の塊となって鼻を再起不能にさせる。内部が鉄製の扉に閉ざされているために外に出て新鮮な空気を吸うことも許されない。

 ミンナの作業服、長靴、机、椅子、目に入るものすべてが敵に見え、咬みついて振り回し、爪を立てて隔壁を削っても気分が晴れない。

 敵……敵……敵……敵……。
 どこを見ても敵だらけ。
 
 思い切り吠えて虚勢を張った。
 何回も何回も吠えた。

 異常を察したのか奥から早いリズムで足音が聞こえてきた。

 物陰に隠れた。

 相手は背中を向け無防備。
 咬みつくチャンス!

 後ろ肢に体重をかけていつでも飛びかかれる体勢をとった。

                         <了>
 
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