小指心
―――――――――――

あぁ、とうとう言ってしまった。

とうとう告げてしまった。

『まだチャンスあるなら、また教えて』

なにがチャンスだ、そんなもの捨てたはず。
梓ちゃんに迷惑してるのなんて分かってる。

それでやっと決意、かためたのに。

『蓮くんの近くにいるとドキドキするしっ・・・』

「・・・」

なんで僕の決意を揺るがすのよ。

別に僕はあんな無理を梓ちゃんの口から出してもらいたくなかった。
声が震えていた。

「はぁ・・・」

ため息しか出ない。

本当、やっと決めて梓ちゃんに言おうと思った。
だからこうして、断った。

「ヤッバい・・・」

きっと今頃泣いてるんだろうな。
なるべく梓ちゃんが傷つかないようにした、でも。

「自分の方が傷ついてどうする・・・」

まさにそうだ。

僕が知らない内になにかが変わっていて。
もしかしたら・・・

どこかで梓ちゃんと繋がっていたかもしれない。

「・・・」

今頃、そんな事にも気付かずに。
梓ちゃんには困らせる事しか出来ないなんて。

「はぁ・・・」

あの笑顔が見たくて、意地悪になっていた。

その度梓ちゃんは顔を真っ赤にして。
すごく・・・可愛かった。



『蓮くんの近くにいるとドキドキするしっ・・・』



僕は平気なふりをして、たんたんと頭にあった言葉を言って。
勝手な思考で梓ちゃんを傷つけた。

優しい時間は流れて、残ったものはなにもなかった。

こんな僕でも、梓ちゃんなりに求めてくれていた。

「・・・」

ふと梓ちゃんが脳裏を過る。

< 203 / 250 >

この作品をシェア

pagetop