小指心
止めてよ、駄目だよ、苦しまないでよ。

私が泣きそうじゃん。
こんな恥ずかしい姿、一馬は見ないで。

ただ、一馬は・・・

一馬は笑ってなきゃ?

「梓、ぇっ・・・冗談、だよな?」

「・・・一馬」

「は、ははっ。梓、冗談キツいからっ」

そんな苦笑いしても私には見える、本当の一馬が。
無理に笑っていても、それは一馬ではないから。

あの笑顔が、一馬だから。



「本当、ゴメン一馬・・・」



そういうと一馬は私の手を握った。
その手は汗ばんでいて、本当は分からないぐらいに震えていた。

ゴメンね一馬。

「これが、私の気持ちなんだ?」

本当にゴメンね。

自然に涙が一筋流れていて、頬を伝ってポトリと落ちた。
ああ、風が気持ちいい。

「俺は・・・梓が・・・!!」

「知ってる、一馬は悪くない」



ギュッ



「そうだよ・・・一馬はなにも、悪くない・・・」

ただ、気持ちが変わっちゃったの。
今更だけど、この感じは―――――本物って気付いた。

「梓ぁっ・・・!!」

せめてものお詫びに、私は思いっきり一馬を抱きしめた。

この背の差、私は好きだったな。

いつも抱きしめる時はちょっと背伸びするの。
そしたら一馬に近づけるから。

ありがとう。

「一馬・・・私、蓮くんと一週間お試しで付き合ってみて気付いたんだけど」

一馬はそのまま静かに私の話を聞いてくれた。

「初めは全然一馬の方が断然好きだった、でも途中から蓮くんへの気持ちに気付いちゃって。もう自分でもどうする事は出来なかったんだ」

今でも変わらない。

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