The World

「あーあ、こんなに散らかしちゃって」

呆れ笑いを零す彼女は優しくて、どうしようもなく、愛しかった。
真っ暗な部屋のまま、気が付けば、細い肩を引き寄せ、ぎゅっと抱き締めていた。
熱が燈って、胸を締め付ける。

「……来週って言ってたじゃん」

愛しい匂い、声。温もり。

「私だって、会いたいに決まってるでしょ」

抱き返す腕が、優しく背中を包む。
頬が擦れ合い、繊細な肌から熱を感じた。

「……精神安定剤なんか、要らない。どんな薬よりも、俺にとったら、小夜の方が安心する」

「霧弥……」


滑らかな髪が指に溶け、目茶苦茶にしたくなった。

強引に唇を押し付けると、彼女は少し迷いつつも、俺を受け入れてくれた。
絡み合う舌が言葉のように交わされ、舌から彼女の熱を深く感じてしまう。
欲しかった彼女が、今、ここに在ると実感すると、理性さえも飛びそうなほど、愛しくて、仕方がなくなった。

「あ……、」

零れた声が耳の奥深く響いてくる。


愛しい温もり。声、匂い、視線、熱。

彼女に、欲情してる。


俺は、嘘つきだ。
安心なんかしていない。

彼女を抱くと、気が気でなくなる。
彼女がいないだけで、狂いそうになる。


どうして、こうも愛しい?



「……今日は、ごめん、優しくできそうにない」

返事をさせる間もなく、呼吸を奪った。



―依存症―
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