The World
○ bitter
夕日が綺麗で、時計を見ると、まだ午後四時を過ぎたところだった。
渡り廊下を少し歩いただけなのに、風で手がかじかんでいて、気が付くと、こんなにも指先が冷たくなっていた。
この別館の窓からは、神々しいような、不気味なような光が差していて、歩けば足音も響くほど静かであったし、校内とは思えないくらい、どこか異空間のような感じがした。
左手に絡まった紐の先には、いつもとは違う紙袋がゆらゆらと空を泳いでいる。
感覚があるのかないのかさえも不確かなほど、左手は固まりきっていて。
原因は、その紙袋の中身にあった。
今日だけ、特別なものに変わる“チョコレート”というお菓子。
そう、今日はバレンタインデーだ。
きりりと胸が押さえ付けられ、さっきまで無意識のように動いていた足までも、神経が研ぎ澄まされ、地面を踏み締めることに躊躇いを見せ始める。
ドアの前に立ち、ざわつく胸を整理しきれないまま、金色に輝くノブに手を触れた。
見慣れない室内と、薄暗い夕日が綺麗に混ざり合って、目に映り込む。脳へ入ってくる。
目で見渡すまでもなく、並ぶ多くの本棚の向こうに、一人の男がいた。
光にぼやけそうなほど、淡いその人影は、天使でも何でもなくて。
見つけた途端、吸い寄せられるように眼が彼から離れなくなってしまった。まるで、虜だ。
人気のない図書室を、固まった足が突き進み始める。絨毯を踏む音が、微かに耳に響いた。
渡り廊下を少し歩いただけなのに、風で手がかじかんでいて、気が付くと、こんなにも指先が冷たくなっていた。
この別館の窓からは、神々しいような、不気味なような光が差していて、歩けば足音も響くほど静かであったし、校内とは思えないくらい、どこか異空間のような感じがした。
左手に絡まった紐の先には、いつもとは違う紙袋がゆらゆらと空を泳いでいる。
感覚があるのかないのかさえも不確かなほど、左手は固まりきっていて。
原因は、その紙袋の中身にあった。
今日だけ、特別なものに変わる“チョコレート”というお菓子。
そう、今日はバレンタインデーだ。
きりりと胸が押さえ付けられ、さっきまで無意識のように動いていた足までも、神経が研ぎ澄まされ、地面を踏み締めることに躊躇いを見せ始める。
ドアの前に立ち、ざわつく胸を整理しきれないまま、金色に輝くノブに手を触れた。
見慣れない室内と、薄暗い夕日が綺麗に混ざり合って、目に映り込む。脳へ入ってくる。
目で見渡すまでもなく、並ぶ多くの本棚の向こうに、一人の男がいた。
光にぼやけそうなほど、淡いその人影は、天使でも何でもなくて。
見つけた途端、吸い寄せられるように眼が彼から離れなくなってしまった。まるで、虜だ。
人気のない図書室を、固まった足が突き進み始める。絨毯を踏む音が、微かに耳に響いた。