The World
「お、よく分かったね。俺がここにいるって」
私を見つけると、見とれそうなほど綺麗なその顔は、ニヤリと笑った。
彼の甘い香りが鼻に絡む。眩暈がしそうなほど、甘くて、優しい。
「教えてもらったの」
滑らかにそう言葉を放ちながらも、内心はドキドキで、咄嗟に渡したい物を後ろに隠してしまった。
けれど、隠したって、結局は彼のお見通しで。不埒な口元が、笑いながら「へぇ」と言った。
ここまで来て、改めて感じる。
この人は、かっこいい。
すらりと伸びた背も、色素の薄い眼も、通った鼻筋、妖艶な唇、柔らかい髪、刺のある優しい声。
虜にならないわけがないのだ。
それは私だけでなく、他の人も例外ではない。
たくさんの女の子にチョコレートを渡されていたのを、この目で見てしまった。
私もそのうちの一人にすぎない。
そう考えると、何だか、悲しくなる。
きっと、彼は数なんて数える暇なんてないし、そんな事は気にも止めていないと思う。
だから、「貰ったうちの一つ」になるのは、虚しい。
私だけを特別と思ってほしい。
そう思ってしまうのは、私が醜いからで。
けれど、きっと、誰もがそう思っている。
ぎゅっと後ろ手を握り締めると、感覚の戻った掌が少し熱くなった。