The World
「開けていい?」
そう聞いたくせに、私の返事を待つことなく、手は着々と紙袋から、箱へ移動し、リボンを解いていく。
「あっ、ダメ、待って!」
咄嗟にそう言うと、彼は不思議そうにこっちを見た。透き通った眼が私を困らせる。
「私、料理、下手で……、だから、甘くないかも」
甘党な彼の口には、到底、合うとは思えなくて。
今日まで散々考えて、何回も作り直した。
これでも、一番上手く出来たものを持ってきたつもり。
けれど、私の腕の悪さでは「おいしい」と言えるようなものを作れるはずもない。
今になって、渡さなければ良かったかもしれない、なんて思い始めてくる。
「俺が甘党って事、知ってるのに?」
……意地悪。
厭味な笑顔を浮かべている。
それなのに、私は、この人が好きなんだ。
「……まずかったら、嫌だもん。私がいない所で食べてほしいの。だから、開けないで」
伏せていた目を上げると、彼は顔を押さえて、視線を泳がせた。
「……馬鹿だなぁ」
夕日の入り込むこの部屋は、彼の色白な肌までも染まるほどに真っ赤で。
何だか、天国のような、地獄のような。どこか異空間のような感じがして、少し苦しかった。
「今、食べる」
止まっていた手が動き出す。私が声を発する前に、言葉を遮られてしまった。
「だって、俺のために作ってくれたんだろ? 食べるよ」
浮いた心臓が、元の場所を忘れている。
こんな寒い季節なのに、どっと汗を掻いてしまいそうになった。
言い返す言葉もないまま、彼は小さな丸いチョコレートを口へ放り込んだ。